第27回逍遥書道会展


【第二十七回逍遥書道会展と講演会】
―伝統的な本格的書道を目指しながら、広く書道文化を楽しんでもらうことを意図し、テーマを設定した書道展と講演会―
逍遥会主催 中村海洞
逍遙会は、伝統的書道の文化を地域に根付かせることを願い、今から30年前にあきる野に立ち上げた書道会です。毎年春期に、地域に因んだテーマを設けて書道展と講演会を行って来ました。
27回目の今年は『龍・飛躍の年』をテーマとして行われました。「龍」は古来、君主・俊才あるいは瑞兆・劇的変化の象徴としてたとえられてきました。現今の厳しい時勢ほど、多くの優れた人智を結集しての「龍の如き世の瑞兆・劇的変化と飛躍」が願われている時はありません。展覧会では地域の軍道和紙工房で、会員各自が漉すいた和紙に書いた作品も展示しました。




逍遥書道会展:  平成二十四年4月7日から9日まで、
逍遥書道会講演会:4月7日午後一時から三時半まで、
場所:      イオンモール日の出二階、イオンホールにて



今年の干支にちなみ、「龍」をテーマにして作品制作と、講演会が企画されました。今年は幸い昨年の様な不幸な天災もなく皆さんの熱いご声援のなか、盛大に挙行することができました。

講演会アトラクション 「龍にちなんで」
詩吟は、今年度のテーマに相応しく「龍」に因んだ詩二題を選び、展覧会初日の講演会アトラクションとして詩吟を行いました。今回の詩吟は対極的な二題の詩の構成で、詩吟1の陳与義の詩は、依然として世の艱難が続くにも関わらず、自らは官より身を引退して世間から去り行く孤独感・寂寥感を詠っています。一方、詩吟2の杜甫の詩はまだ挫折を知らない前途洋洋たる若きの天才詩人が、これからまさに登りつめて龍と化すという登龍門の象徴、「龍門」を題材にして繁栄の世を謳歌する悠久の感慨を詠っています。詩吟は、電子楽器の伴奏で見事な声を披露されて、漢詩の心とその味わいを会場の皆さんは堪能いたしました。書の制作においてもこのような漢詩の味わいを作品と共に伝えることは重要であることはいうまでもありません。

詩吟1「牡丹」(陳与義)を山根嘉王さんが、詩吟2「龍門」(杜甫)を山根吼進(衛海)さんが演じました。詩の内容は以下の通りです。
詩吟1
「一たび胡塵の漢関に入って自り、十年伊洛路漫漫、青 溪畔龍鐘の客、獨り東風に立ちて牡丹を看る」 牡丹 (陳与義)
(詩の解説)南宋紹興六年(1136)の陳与義の晩年近くの作詩である。宋王朝は金軍に洛陽の地を追われ南に逃れ南宋を打ち立てる。青 (浙江省)は陳与義が晩年近くになり全ての職を退き移り住んだ地である。この詩の契機となった牡丹は彼の故郷洛陽の名花である。異郷で牡丹を見て望郷の念にかられ、失地に対する悲憤慷慨と、自らは引退して晩年を迎える孤独感を詠った詩である。「龍鐘」とは孤独感に涙が流れることをいう。

詩吟2
「龍門野にたわりて断え、駅樹 城を出て来る。気色皇居近く、金銀仏寺開く。往来時 (しばし)ば改まり、川陸日に悠なるかな。相閲(けみ)す征途の上、生涯幾回か尽くす。」「龍門」(杜甫)
(詩の解説)杜甫三十四歳、天宝四年に龍門を訪れた時の作と考えられている。「龍門」とは、世界遺産の一つ、書道でも有名な龍門造像記の遺されているところでもある。龍門山から洛陽の都までの素晴らしい眺望を称え、龍門のそびえ立つ壮麗な金銀に飾られた寺院をみると龍門やその側を流れる伊水は悠久であると詠う。詩聖杜甫が、詩仙李白や気骨の辺塞詩人高適、あるいは大書家李らとはじめて出会うのもそのころであり、文芸史上の巨星達が行き交う世界、若き日の杜甫の気概にあふれた時代の詩である。

講演1:「あきる野の神社」
「あきる野の神社」は、学校法人もの作り大学教授 白井裕泰先生がお話しされました。その概要は以下の通りです。
武蔵武士とあきる野のかかわりをテーマとし、東国・坂東の律令時代の多摩地域の状況と、国府と神社との関係について述べ、あきる野市にある著名な神社に二宮神社、雨武主神社などがあり、これらには共通の「三間社流造」と呼ばれる建築様式があることと、その特徴について語られました。
また『延喜式』によれば武蔵国には6つの「牧」が記載されるが、そのなかの一つ「小川牧」が当地「あきる野」に在ったとされる。この「小川牧」を拠点にしていたのが小川氏、二宮氏と呼ばれる人達で、後に関東武士団武蔵七党と呼ばれた西党(日奉氏一族)にがって行く者達であった。彼等氏族の名前は現在の地名や字にその名前を残しているが、彼等の遺産がこれらの神社の建築様式に遺産として結実したものであろうという。

講演2:「多摩寺社に見る龍」
「多摩寺社に見る龍」は 逍遥書道会主宰 中村海洞が『新編武蔵風土記稿』から題材を選び講演しました。
『新編武蔵風土記稿』は、徳川幕府が多年の歳月を費やして編んだ一大地誌であり、大学頭林述斎(林羅山から8代目の幕府学問所祭酒(学問行政の長))の建議により文化七年(1810)昌平坂学問所で編纂の行を起こし文政八年に完了、十一年に改定され完成された。新編とは、奈良時代初期の元明天皇の詔による『古風土記』に対して新しく編纂されたいという意味で付けられ、江戸時代の風土記を成さんの想いを示すものであった。完成までに何度もの改定編纂を重ね、最終名称にすらも「稿」を残した完璧主義とも思える態度が見えることからも、林述斎等の編纂者のなみなみならぬ気概が窺われるものである。
これは現代の我々が、武蔵一国の村々の事情を探る上で必須、第一級資料であることは広く知られている。その中に記載される多摩のあきる野、八王子、青梅、西多摩郡全域の「龍」の名を冠した 寺社をすべて抜粋すると14件の多きをみる。これら寺社を、創建や由来から子細に見て行くと
A・真言宗系(平安?〜應永(1396)) 、B・臨済宗・曹洞宗系(貞治(1364)?〜慶長(1613))、C・神社系 (?〜寛文(1670頃))の三つに分類できることが解る。
A・B・は、中国の仏教伝来以前に見られる中国の土俗的「龍」信仰の系譜に繋がるものではなく、仏典に由来するものと考えられ、『法華経』(序品)、(譬喩品)や『金光明最勝王経』(金光明経)に記載される仏法を守護する天の神々「天竜八部衆」や 「八大竜王」の系譜のものであること、また C・神社系については、神仏混淆から仏典の(善女竜王、娑羯羅竜王)に対する雨乞い祈祷に由来をもつものの系譜 、また南朝遺臣中村数馬等が奥多摩にもたらした九頭竜信仰に由来する俗説に由来するものであることを、それぞれ明らかにした。
また、『説文』『爾雅』『廣雅』『方言』『楚辞』『爾雅翼』などの中国古典では、龍がどのように語られ、民間に親しまれ、あるいは恐れられているかの幾つかの論説や、龍のイメージが時代と共に形成された過程などの話を行った。

アトラクション パフォーマンス書道
「来年もやりたい」の声に応じて今年もパフォーマンス書道を、逍遥会パフォーマンス隊がおこないました。
越沼真由(題字)、後藤大輝、新間咲花さんたちが「Joyfull」の曲で「楽」を、小峰沙羅(題字)、矢治佳音、井上直紀さんたちが「ありがとう」の曲で「輝」を、中村和子(題字)、山崎彩加、矢治美穂さんたちが「世界にひとつだけの花」の曲で「華」を、石原繪哩子(題字)、高木郁子さんたちが「化身」の曲で「龍」を書いてしめくくりました。
今年も昨年以上の大勢の観客の声援の中で行われ、飛び入り参加もあって大変盛り上がりました。これら四題の作品は会期一杯、会場内に展示いたしました。

テーマ作品は中国古典から「龍」字を含む漢詩や、和歌を中心に選び制作しました。臨書は龍門造像記や、漢碑の龍を含むものなどから取りました。また龍首の下に沢山の鱗を連ねて、一枚一枚に会員各自が龍にまつわる言葉を、自由に書く文字遊びもおこない会場に展示しました。それらをすこし覗いてみますと、
「竜頭蛇尾」「辰宿列張」「たつの落としご」「竜宮城」「龍虎」「たつたあげ」「竜胆(りんどう)」「龍のひげ」「歯がたつ」「都のたつみ」「逆鱗」「月日がたつ」「もたつく」「こたつ」「家がたつ」・・・、皆さん大笑いしながら書いた姿が目に浮かびますね。

今年の参考展示はやはり龍にちなみ、「西狭頌」とその黄龍などの瑞兆図、「龍門牛厥造像記」、「神龍半印本蘭亭」の原拓を参考展示して諸氏の眼の楽しみといたしました。

第二十七回逍遥書道会書道展
展覧会テーマ:龍にちなんで
作品: 毛筆(テーマ作品、年間作品(創作、臨書、漢字、仮名)、学生部作品、軍道和紙作品)
公文書写作品(ペン、筆ペン、かきかた)        (以上 文責海洞)

パフォーマンス書道  会員の感想
「一ばん大きい字を書きたい」   五日市小学校二年  新間 咲花
はじめのころ習字はむずかしくかんじました。でも、だんだん習っていくうちに楽しくかんじてきました。
パフォーマンスでは「いのち」と書きました。パフォーマンスの前に「いのち」と書いて書きぞめてんでしょうをもらったこともあります。
教室では二年生になると漢字になってきます。でも、少しずつ上手になって何でも書ける人になりたいです。大人になっても習字をつづけてみたいです。いつまででも上手でいたいです。先生より上手になってしょうじょうをいっぱいもらって、パフォーマンスで一番大きい字を書きたいです。

「どきどきのパフォーマンス」   増戸小学校五年  後藤 大輝
ぼくは四年生の七月から習字を習いました。はじめはなかなか上手にならなくて大変でした。逍遥会展のパフォーマンス書道に出させてもらいました。
ぼく達のグループの衣装は剣道着でした。初めてだったのでどきどきしましたが、ジョイフルの曲に合わせて「いのち」を力いっぱい書きました。あとで、剣道着が一番似合ってかっこ良かったねとみんなから言われました。なんとかぶじに終わってほっとしています。

「念願のパフォーマンス書道」   小金井北高校二年  山ア 彩加
今回、私は初めてパフォーマンスに参加させていただきました。逍遥会でのパフォーマンスは私が中学生になった時から行われていましたが、部活動や授業などの学校行事の関係で今までは参加できませんでした。
年々強くなる「あの大きい筆で題字を書いてみたい」という思い・・・残念ながら今年もその夢はかないませんでしたが、今年は三人で一つの作品を完成させるという今までにない経験ができたので良かったです。今回は自分の字は脇役的存在でしたが、気が抜けない緊張感にとても刺激を受けました。来年こそは大きい筆で主役の字が書ければいいなと思います。また、その時に立派な字が書けるように、練習を頑張ろうと思います。

「音楽と書道のコラボは最高」    逍遥会      石原 繪哩子
大きな字を書くというのはとても解放感があり、楽しかったです。ねじり鉢巻きハッピ姿の祭り衣装を身にまとい、「化身」の曲に合わせて自分の身長以上の「龍」の字を草書で一気に書きました。大筆は扱いが大変でしたが、最後の演題なので盛り上げたいと頑張りました。パフォーマンスは一度やってみたかったので、今回参加して本当に楽しかった。音楽に関わる者として、音楽と書道のコラボは、最高!


展示および講演会




主催 逍遥会(あきる野文化連盟所属団体)
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